隣実物語私考

 

コロボックル
 全般
 小さな国
 マメイヌ
 星から
 ふしぎな目
 つづき

その他
 ジュン
 ネムリコ

番外
 わんぱく

 

<topへ>

「ジュンと秘密の友だち」

丘の斜面に建っているジュンの家の前には、「がけの小庭」と呼んでいるお気に入りのスペースがある。ある日、ジュンは、くわを持ち出して、そのがけすそを掘ってみた。やっとできたくぼみに座ってみると、なかなかの座り心地だ。ジュンは向こうの丘に建つ鉄塔に呼びかけた。
「こっちへこい、腰かけさせてやるぞう」
すると、目の前の茂みから、いきなり男の子が飛び出してきた。「蜂山十五」と名乗るその不思議な男の子にすすめられて、ジュンは「がけの小庭」に自分だけの小屋を作ることにする。


 

秘密を持つことの、ワクワク感、やや心細い感じ、そして、責任感。そんなものを伝えてくれる話だと思う。そのあたりは、コロボックルシリーズ1作目「だれも知らない小さな国」に似ているかも知れない。

まず、小屋を建てる、という秘密。
自分だけでこっそりと(と、ジュンは思っている)、小屋をつくる。思い立ってから計画を練り、設計図を何度も書き、あちこち偵察をして材料をかき集めて……佐藤さん得意の細かくて丁寧な描写が、次第に小屋のでき上がっていく高揚感を生み出していく。
そう、子供の頃に、秘密基地をつくった、あの気持ちだ。

そしてなんといっても、不思議な友達ダイちゃんだ。
ある日突然現われた、スーパーマンみたいなダイちゃん(蜂山十五)は、鉄塔のお化けかもしれない。たくさんの期待と憧れと、少しの不安。なんだか甘酸っぱいような雰囲気が漂うのは、会いたくても会えないジュンの気持ちがしみ出ているから

だから、小屋が完成に近づくにつれて高まる気持ちも、実はどこか寂しい。だって、ダイちゃんが訪ねてくれないと、本当の完成ではないのだから。ジュンの言葉としてはっきりとは書かれていないけれど、その気持ちはあちこちの描写に表れている。う〜ん、さすが。

会えない切なさ、別れが待っている切なさ。だけど大切なものは、心の中に生きているんだよ、というメッセージ。児童書の形を取っているけれど、充分に大人向けのお話にもなっている。

 

ところで、冒頭からして、不思議な作りである。
なにしろ、主人公の姉、ミサオ姉ちゃんの紹介からはじまるのだから。文庫本で5ページ半(挿し絵を除いて)。ミサオ姉ちゃんの本編での登場は3回くらいしかないことを考えると、変に詳しい。彼女がどんな人かよくわかって、親近感も湧く。湧いたところで、あっさり捨てられてしまうような気分だ。
実はこれが、ラストシーンに効いてくるのだから、なんとも巧妙。
ジュンとダイちゃんだけの物語かと思いきや、切なさのゲージがぐいぐい上がってきたところに、別の新たな出会いを生み出して、ほわっとさせる。さりげなくも素敵な演出なのである。

 (03.5.5)