中世から近世の、魔女狩りが横行するヨーロッパ(ドイツ?)が舞台。
「魔城」の侯爵、フランツ。
その悪魔を祓いに来た、悪魔の印を持つアンジェラ。
自分を悪魔の化身だと言う少年ベル。
真実を見抜く目を持つ、盲目の執事。
二人なのではなく「ひとり」の、双子のメイド。
狼に嫁いだ、侯爵の妹。
登場人物はみな、どこか歪んでいる。
この歪みが、物語全体に漂う雰囲気をうまくつくっている。
キリスト教徒である民衆は、しかし一方でいにしえからの信仰にも怯えている。
つまり、人が自然と折り合いをつけて生きていくために必要な、犠牲。
狼との共存のために、生け贄が必要だという、俗信。
もちろん、表立ってはそんな「異教」は信仰できない。
だから、人々は領主にその役割を押しつけ、沈黙を守っている。
後ろめたさによって保たれている、危ういバランス。
物語の重要な背景であるこの状況が、みごとに描かれている。
まず、そこが興味深い。
この状況の渦中であるフランツと、アンジェラ。
ふたりとも、それに対してじたばたと抵抗するのではなく、冷静に対しているのだが、その様はまるでちがう。
あたかも楽しんでいるかのようなフランツ。
あきらめきっているアンジェラ。
ふたりの心は、すれ違い、絡み合う。
視点はアンジェラなので、彼女の描写がメインなのは当然だが、その心理がとても丁寧に描かれている。
読みながら、彼女の絶望の深さを思い知り、胸が痛くなってしまうほどだ。
悪魔とののしられ、愛を知らないアンジェラが、愛を信じてみようかと思えるまでの、心の揺れ動きは読み応えがある。
現実的手法で悪魔の存在を否定するアンジェラに、最後に現実主義では割り切れない事態が。
ファンタジーとしての仕掛けもそっとしのばせてある。
淡々としていて派手さはないが、わたしの好きな一品である。
(05.9.15 日記より)