さて、ものすごい久々の組み立て前キットチェックである。今回俎上に上がるのは、アメリカの 新興メーカ”トライデントホビー(以下、トライデント)”の第一弾『クレイブン』級である。
第2次大戦に参加した米海軍の駆逐艦は、相当なクラス数、総隻数に上る。クラス数で言うと、練習艦 任務に就いた最古参のタッカー級『アレン』も含め、平甲板型を一つのクラスとして勘定しても (因みに、『コールドウェル』『ウィックス』『クレムソン』の3クラスに分けられる)、実に15クラス (DM、DMS、AVPなどのコンバートやDEを含めない主力型(DD)に限って勘定。クラスの区別も、資料により 変わってくるが、それでも12〜3は下らないだろう)となる。そして隻数となると…他国への貸与、他艦種 へのコンバート艦を含めなくとも、ドンブリ勘定でも実に300隻に迫る数!!
教訓:ケンカを売る時はよくよく相手をみてからにしよう(笑)。
閑話休題。
…とはいえ、そのウンザリするような数の中でも、最も注目されるのは、”第2次大戦型”の駆逐艦である
『フレッチャー』級や『アレン・M・サムナー』級、『ギアリング』級、も一つオマケで『ベンソン』級と
『リヴァモア』級といった所である。戦前竣工の駆逐艦はどうしてもこれらの影に隠れがちで、また、全てが
特に注目すべき完成度の設計でも無い訳なので、注目度もかなり低くならざるを得ない。
その中で、今回リリースされた『クレイブン』級(実際には『グリッドレイ』級、『バグレイ』級、 『ベンハム』級の3クラスなのだが)のキットである。アメリカの事情はどうだか分からないが、日本国内に おいては、正直、私みたいな”モノズキ”位しか注目しないアイテムである。でも、艦船について深い関心 を持つようになると、こういう”スミッコの事象”がとても面白く感じられるのである。戦前(WW2前)の 竣工、となると、時代や戦訓による艦容の変化がとても面白く、自分のウデとの相談になるが、キットの 楽しみ方の間口が非常に広がるんである。
と言う事で、玄人好みのクラスを再現したこのキットの出来や如何に。
(『グリッドレイ』『ベンハム』『ヘンリィ』 『スタック』)
トライデントの日本の販売代理店はピットロードであり、”PF”と言うシリーズにての取り扱いとなる。 キットの、本国での呼称は”Gridley Class”であるが、国内での呼称は『クレイブン級』となっている。先にも 触れたが、実際には、このクラスは『グリッドレイ』級、『バグレイ』級、『ベンハム』級の3クラスに分類される (もっとも、資料によりクラスの分類はバラバラである。私は、M.J.ホイットレー著『第二次大戦駆逐艦総覧』の 区分を取っている)。国内の定価は各¥2000。ピットロードのWシリーズの駆逐艦アイテムに比べ、価格差はさほどでも 無いのが嬉しいところ。
もともとがピットロードの海外代理店だから、と言うわけでは無いだろうが、パッケージトップは、 何と吉原幹也画伯が手がけている。アメリカでも艦船を手がけるイラストレーターは居るだろうに、 日本人の艦船モデラーとして、実に誇らしく感じる事である。
『グリッドレイ』は戦前の姿。因みに、画面奥で併走している艦は『バグレイ』である。『ベンハム』は メジャー22型迷彩を施され、空母(これは『ホーネット』か??)に随伴している所。『ヘンリィ』『スタック』 も、大戦時の姿にて描かれている。舷側と上構で微妙に色が違って見えるが、これはメジャー21型だろうか??
本体パーツ群と、武装パーツ群と言う構成で、やはり、ピットロードのキットにソックリである。まあ 後発が真似してはいけないと言う道理は無い訳だし、これは合理的な分け方でもあるし、メーカとしても 馴染みがあるのかもしれない??
『グリッドレイ』と『ヘンリィ』に使う煙突パーツ(A7、A8、A10)であるが、『グリッドレイ』として 組む場合、この形状が最大のネックとなってくる。と言うのも、実はこの形状、『グリッドレイ』級では なく『バグレイ』級の煙突になってしまっているからである。
前に”資料によりクラスの分類がバラバラ”と書いたが、実の所、このクラス(と言うよりもファミリー だな)は、基準に何を取るかで分類が決まってしまう。『グリッドレイ』級はともかくとして、後続の 『バグレイ』『ベンハム』の分類が問題で、例えば『世界の艦船』増刊『アメリカ駆逐艦史』は、 この2クラスを一括して『バグレイ級』としている。これは主に搭載しているボイラーによる区分になるが、 一応、計画年度により、前期型と後期型が存在する事には言及している。前述『駆逐艦総覧』は、この 前/後期型をそれぞれ『バグレイ』級と『ベンハム』級として扱っている。また、『駆逐艦史』で 『バグレイ前期型』としている『マッコール』『モーリー』を『グリッドレイ級』に含めている。ハセガワが 取り扱っている、米スコードロン/シグナルの”US Destroyers in Action”は、Part2と3にてこのファミリー を取り上げているが、この区分が実に不可解で、”2”では『グリッドレイ級』を『クレイブン級』として、 ”3”ではそれ以外を『マッコール級』として紹介している。この判断基準が何なのか、今ひとつハッキリ しない。
これ以外の各資料をあたってみたが、このファミリーの、最も理に適った分類は、『駆逐艦総覧』の 分類になるようである。というのも、煙突形状は3タイプ有るが、それがこの本の分類にきれいに重なり、 外観による分類が容易になる。また、搭載ボイラー数でもきれいに分けられる(『グリッドレイ』級と 『バグレイ』級はヤーロー缶またはバブコック&ウィルコックス缶を4基、『ベンハム』級はバブコック& ウィルコックス缶を3基)。結局、これが一番分かりやすいカタチになるか。
さて、話が大きく逸脱してしまったが、とにかく、『グリッドレイ(級の艦)』として組むには、煙突の 修正が必須となる。特に基部形状が良く分からないが(この部分が良く分かる写真がとにかく少ない)、 分からないなら分からないなりに、それらしく直してやる位でも良いかも。また、煙突後部には構造物が 付属している。この部分、工房飛竜が以前リリースしていた『グリッドレイ級』のガレージキットも、 いくらか参考になるかもしれない??大戦期は、この部分に機銃を増設しているので、こだわるなら リサーチはしっかりやっておきたい。
『ベンハム』『スタック』は、ファンネルトップがまっ平らになってしまう。この場合は不要パーツ となるA10を取り付ければ、どうにか見られる様になるだろう(もっとも、刳り貫いてグリルを自作 しちまった方が良いか)。あと、実艦は、基部煙路(A35)とファンネル本体(A33+A34)の間に、 もう一つブロックが挟まるようになっているが、これが抜けている(そのため、キットをストレートに 組むと、煙突が寸足らずになるようである)。
また、全てのクラスに共通する事だが、写真を見る限りでは、外観上、基部の煙路は左右で割れて いない(マストは貫通している)。マストの取り付けだが、組説を見る限り、そのままだと直立して しまう。マスト取り付け基部を少々前にずらすと具合が良くなるか。
煙突より後ろの上構形状も、非常にややこしい所。基本的に、使用するA37(前後が長すぎる様だ)は、 どうも、『グリッドレイ』級はそのままで良いようだが、他の艦の場合は、そのまま組むと大戦時の スタイルになってしまう。戦前の状態を作る時は、ここは大きなチェックポイントとなる。後部上構の 探照灯の櫓も、バラエティに富んでいる。ところで、『スタック』の場合、この櫓部分の組み立てが 間違っている様なのだが…(組説の表と裏で合っていない)。櫓基部(または機銃プラットフォーム) となるA20、A21はブルワークが厚い。丁寧に削って薄くしておきたい。
艦橋前面(パーツA12、A13)は、パーツで見る印象は、のっぺりした顔に見えてしまう。左右面の角度調整は 必要になって来るか。パーツを大戦前/大戦時の2パターン用意しているのは良し。艦橋ウィング部分(パーツ38) の遮風板も、あの独特な形状を何とか形にしようとしたようであるが、やはりインジェクションの限界か。 目立つ部分なので、手をいれたい所である。
上構部分に関しては、各クラス、再現したい時代により大きく形が変わってくる。資料の多寡がものを 言ってしまうのだが、リサーチの程度がもろに反映されそうで、何というか、ウデが鳴ると言うかセンスが 問われると言うか…個人的には、とても面白そうな部分なんだけど…(笑)。
船体部分。欠点は、錨鎖甲板とアンカーレセス。アンカーに至っては、そのパーツが無いのが痛い。魚雷 の取り付けだが、後部魚雷管はもうちょっと前に持ってきた方が良さそうである。
5インチ砲は、ハーフシールド型が無いものの、特に、オープン型の砲座(パーツB18)の形状が優れている。 フルシールドも、後部がすぼまった形状が良く再現されているが、取り付け部になぜか大穴が開いてしまい、 そのため、取り付けダボが無くなってしまっているのはいただけない。オープンシールド型の組み立てだが、 組説では、砲座にパーツB19を付けるように指示されているが、これはB39では無いだろうか??B19は3インチ砲 のように思えるのだが…??フルシールドの砲は、砲身にA36を使うように指示されているが、ここはやはりB20の 方を使った方が収まりが良いだろう。
このキットには使用しないが、28mm4連装機銃(パーツB7)は、ピットロードの物より小ぶりでいい感じ なのだが…3つ並びになっている脇にある、でかい4連装機銃は何なんだろう。探照灯は2タイプあるが、 小型のほうのパーツのナンバリングがされていない。これはB31が正解(もっとも、このキットには使用 しないけど)。
全般的に、エッヂがピシッと立っているのが好印象だが、またバリが派手で、一部パーツが大振りに整形
されてしまったり、抜きテーパーがキツ過ぎたりするのが厳しい。パーティングラインもゴツイ。整形には
根気が必要になるだろう。
また、間違いの他にも、疑問点が多い。特に、『ベンハム』『ヘンリィ』『スタック』については、 どれも殆ど同じ内容になってしまっている。まあ、先にも書いたが、資料によってクラス分類がまちまち な艦であるが、実は、大戦時の改装要領はクラスにより、ほぼ決まってくる。個艦の差異も、あるには 有るようだが、その差は小さいものである。
書き忘れたが、組説は、表だけだがカラー印刷である。
デカールは、かなり出来が良い。ニス部分が小さく、また、非常に薄い仕上がりである。また、内容も
大盤振る舞いと言って良い。艦番号も、色違いと大きさの違いも含めて全7種。信号旗も、WW2の米海軍のみ
ならず、現用艦船にも使用可能(国際信号旗と同じデザインである)なのである。因みに、左上の台形の
旗が数字旗(左上から右下の並びで0〜9)、その下の小型の旗の集まりが文字旗(これも左上から右下の
順にA〜Z)である。
総括すると、アイテムのセレクトと再現度はさて置いても、メーカの初めてのキット、と言う事も あるのだろう、組説の誤字や番号抜けなどの遺漏、取り付けガイドの無いパーツなどを見るにつけ、 「頭では分かっていたんだろうけど、やはり初めてなのでイッパイイッパイだったのかな」と言う 感じがする。まあ、これは私個人の意見であり、もっと厳しい意見がある人もいるだろう。
しかし一方で、他のキットに無い細さのマスト(パーツA3)やループアンテナ(パーツA43)、全体的に シャープな印象のパーツを見るに付け、今後これがどう化けて行くか、非常に楽しみと言うか。
何はともあれ、メーカ自体の評価は、続くアイテムの出来如何である。それはトライデント自身も 承知している事と思う。アイテムのセレクト、と言う点に関しては、しばらくの間は、他メーカの隙間を 埋めるようなラインナップが続く事と思う(色んな所で、ピットロードを参考にしているのかな、やっぱり)。
このキットは、国内においてはマイナーと言うしか無いクラスのキットである。また、初めて、と 言う点を考慮しても、その出来は正直言って辛いものがある。何はともあれ、トライデントには、今後も もっと頑張って活動を続けていってもらって、日本のマニアをも唸らせる、魅力あるキットを開発して いって欲しいと願う次第である。他メーカのスキマを埋めるも良し、真っ向勝負を挑むも良し。
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因みに、組説の1ページ目(表)に、こんな事が書いてある(上の組説の写真で、赤枠で囲ってある部分)。 以下に、その訳を挙げておく。かなり端折ったものだが、これで間違ってはいないと思う。
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このキットには、製作に使用しないパーツも含まれています。 本書は組み立ての説明ですが、これがこの艦の決定的な姿と言う訳ではありません。 余分のパーツは、左記リストの姉妹艦の製作に使用できます。また、あなただけのイメージで作る事も可能です。 模型の最終イメージは、ボックスアートと異なる場合があります。 |
…やはり、メーカのほうも「人を選ぶアイテム」という事を自覚しているか??
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