消費低迷の原因は所得の伸び悩みに移った
九七年四月の消費税率引き上げ以降、消費の低迷が続いている。持ち直しの気配はあったが、九八年一二月の消費支出実質金額指数(「家計調査」勤労者世帯)は前月の一○○・九から九六・四へと急落し、回復の糸口を失ってしまった。ただし、出口のない消費低迷が続くなかで、その原因は確実に変化してきている。
消費低迷の最初の原因は、消費税引き上げと九七年一一月に連続して起こった金融破綻によって、消費者が不安心理から財布のひもを締めたことだった。実際、九七年一一月から九八年二月にかけての消費低迷は、可処分所得が増えるなかで消費性向が急落したことによって発生している。しかし、その後消費性向が一進一退を繰り返すなかでも消費不振が続いたのは、所得が伸び悩むようになったからである。所定内給与は前年比プラスを続けたが、賞与の大幅な減少によって現金給与総額は九八年六月と一二月に大きく前年割れした。この結果、九八年の賃金は年間計でも史上初の前年割れという事態に追い込まれた。つまり、現在の消費不振の原因は、消費性向の低下という段階から、所得の低迷という新しい段階に移ったことになる。
この事態は、デフレスパイラルに日本経済が陥ったという意味で極めて深刻である。消費低迷で売上が減少すると企業はリストラを強化する。それは勤労者の所得減少を招くと同時に不安心理を高めるので、一層消費が低迷する。また、売上不振の企業が安売りに出るから、消費者が先安期待から買い控えし、消費低迷に輪をかけてしまう。とめどもない消費の縮小均衡に日本経済が陥る危険がでてきたのだ。
このまま九九年も消費の低迷が続くのだろうか。戦後の景気回復過程を振り返ってみると、ほとんどの場合、輸出や設備投資が景気回復の牽引車となっている。ところが、今回は外需依存や設備投資の活発化によって景気が回復する可能性は極めて小さい。消費を回復させる以外に景気拡大のきっかけはつかめないだろう。現在の消費不振をみる限り絶望的な目標のようにも思えるが、最近になって、消費が牽引車とまでならなくても景気の下支えをしてくれる微かな可能性がでてきている。
総務庁が発表している消費性向は、米国商務省センサス局のX
11という方法で季節調整されている。その結果でみる限り消費性向は一進一退を続けているのだが、X11の進化形であるX12ARIMAで季節調整を行うと、結果は一変する。九八年八月以降、一貫した消費性向の上昇が観察されるのだ。所得の低迷という足かせは確かに重いが、もともと今回の消費不振が消費者心理の冷え込みから始まったことを考えれば、こうした消費性向の上昇は、デフレスパイラルを逆回転させる可能性を十分に秘めている。ただし、その実現には重要な留保条件がある。金融不安が再燃しないということだ。消費の足取りは、綱渡りの綱を登り始めた状態である。日本経済が、欧米ではしばしば見られる消費主導型の景気回復に戦後初めて成功するかどうか。それは、消費者心理の回復が軌道に乗るかどうかにかかっていると言えよう。